ひき逃げは刑事事件専門の弁護士に相談を|検挙率や罰則も
ひき逃げは、私たちの身近な交通犯罪のひとつです。思いもよらぬ事故に動揺し、咄嗟にその場を立ち去ってしまったことが、その後の人生を大きく左右してしまうことがあります。この記事では、ひき逃げをしてしまった場合、どうすればいいのか、検挙率や捕まってしまった場合の罰則、どのような弁護士に依頼すればよいかなどを解説いたします。
1.ひき逃げで科される刑罰は?
ひき逃げとは、車両の運転者が他人を死傷させたにもかかわらず、現場から立ち去る行為です。交通事故が発生した場合には、その場で必要な措置を取ることが法律上義務付けられています。違反した場合は「道路交通法違反」と自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(自動車運転処罰法)上の「過失運転致死傷罪」もしくは「危険運転致死傷罪」などに該当する可能性があります。
1-1. 道路交通法における義務違反
道路交通法第72条には、交通事故が発生した際に運転者が負う義務について規定されています。具体的には、以下の義務が含まれています。
①救護義務:交通事故により負傷者が発生した場合、運転者には負傷者を救護する義務があります。この義務には、必要に応じて救急車を呼ぶ、適切な応急措置を講じるなどの行動が求められます。交通事故を起こしたにもかかわらず、負傷者を救護しないこと10年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科せられます。
②報告義務:事故が発生した際には、運転者は警察署または警察官に事故を報告する義務があります。これは、交通事故の正確な状況を把握し、適切な対応が取られるようにするためです。交通事故を起こしたにもかかわらず、警察官に報告しないと3月以下の懲役又は5万円以下の罰金が科せられます。
1-2. 自動車運転処罰法における過失運転致死傷罪・危険運転致死傷罪
ひき逃げは1-1.の道路交通法に反するだけでなく、自動車運転処罰法上の犯罪にも該当します。たとえば、ひき逃げの結果として被害者が死亡または負傷した場合、次のような罪に問われる可能性があります。
①過失運転致死傷罪:過失によって他人を死傷させる行為に適用される罪で、過失運転による交通事故で他人を死傷させた場合に適用されます。過失運転致死傷罪においては、「過失」がポイントです。通常、交通事故は故意によるものではないため、この罪が適用されることが一般的です。罰則として、7年以下の懲役もしくは禁錮、または100万円以下の罰金が科される可能性があります。
②危険運転致死傷罪:特に悪質な運転行為により他人を死傷させた場合には、危険運転致死傷罪が適用される可能性があります。たとえば、飲酒運転や無免許運転などのように、明らかに危険な状態で運転を行い、事故を引き起こした場合です。罰則としては、最大で15年以下の懲役が科されることがあります。人を死亡させた場合は1年以上の有期懲役が科せられます。上述の悪質な運転行為とは、具体的には以下のような運転行為が含まれます。
- アルコールまたは薬物の影響による走行
- 制御困難なスピードによる走行
- 制御する技能を持たずに運転
- 人や車の通行を妨害する目的での運転
- 赤信号を無視して危険な速度で走行
- 通行禁止の道路を危険な速度で走行
また、上記と比較すると危険性が低いものとしては、「特定の病気の影響下での運転」も含まれます。これは、統合失調症、てんかん、躁鬱病、低血糖、再発性の失神、重度の眠気の症状を伴う睡眠障害など、政令が定めた自動車の運転に支障があるおそれのある病気を有しながら自動車を運転し、その病気の影響によって正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた場合です。
2.ひき逃げが捕まる確率は?
ひき逃げの全検挙率は70%ほどで、死亡事故に限ると、90%を超えています。つまり、ひき逃げの場合、その場で逃げられたとしてもかなりの確率で発覚することになり、被害者の泣き寝入りになることは少ないと言えます。 現在はドライブレコーダーの映像や、各道路に設置されている防犯カメラの映像、事故現場に残されたタイヤ痕、車の破片、塗料で車種が特定され、高確率で犯人が捕まっています。
3.ひき逃げをしたことに気づかなかった場合は?
ひき逃げは、逃げてもほとんどが発覚してしまうとのことですが、もし、運転者が、事故を起こしたことに気づかなかった、自覚がない場合はどうなるのでしょうか。ひき逃げ事件においては、故意がなければ道路交通法上の救護義務違反および報告義務違反は成立しません。しかし、「気づかなかった」と言えばすべてのひき逃げが成立しないのではなく、運転者が本当に気づかなかったのか、客観的な事実に基づく判断がなされます。(たとえ嘘をついておらず、本当に気づかなかったとしても、客観的な立証ができないとひき逃げが成立してしまいます。) 具体的には、防犯カメラやドライブレコーダーの映像、事故状況や供述内容、目撃者の証言などから判断します。たとえば、交通量の多い道路や都市部で歩行者と衝突したような場合、通常は音や衝撃で気づくと考えられます。逆に、非常に軽微な接触で衝撃が小さく、また音もほとんど聞こえなかった場合には、気づかないことがあり得ると判断される可能性もあります。しかし、気づかなかったという主張が認められ、道路交通法上の救護義務違反および報告義務違反が成立しなくても、他者を死傷させた場合は自動車運転処罰法における過失運転致死傷罪が成立します。
4.ひき逃げで逮捕された場合の流れ
4-1. 逮捕と身柄の確保
ひき逃げは、被害者・目撃者の情報や、防犯カメラ・ドライブレコーダーの映像から車両が特定し、逮捕に至るケースが多いです。ひき逃げ事件で逮捕されると、まず警察によって身柄が確保されます。逮捕された時点で、被疑者の自由は一定の制限を受け、警察署の留置場などに留置されることが一般的です。逮捕後は48時間以内に検察へ送致される必要があり、この間に警察による取り調べが行われます。取り調べでは、事故の詳細や逃走の動機、事故当時の状況(たとえば飲酒や薬物使用の有無など)が確認されます。逮捕されている間、被疑者は弁護士以外とは会うことができません。
4-2. 検察への送致
逮捕から48時間以内に警察は被疑者を検察に送致します。検察ではさらに被疑者の取り調べが行われ、事件の具体的な内容や証拠が精査されます。検察官は、ひき逃げの事実や証拠がどの程度揃っているか、被疑者の供述内容などを考慮し、引き続き勾留する必要があるかどうかを判断します。
4-3. 勾留請求と勾留期間
送致された後、検察官は裁判所に対し、被疑者を引き続き勾留するかどうかを判断するための「勾留請求」を行うことができます。裁判所が勾留を認めた場合、最大10日間の勾留が決定されます。さらに、10日間の延長が認められることがあるため、最大20日間にわたって身柄が拘束される可能性があります。
勾留の目的は、証拠隠滅や逃亡の恐れがある場合に被疑者を確保することであり、取り調べや証拠収集を円滑に進めるために行われます。
4-4. 取り調べと供述の確認
勾留期間中、警察や検察による取り調べが継続されます。取り調べでは、ひき逃げの経緯や事故の状況、動機、逃走の理由などについて詳しく質問されます。被疑者とされる方は、取り調べに対して供述をするかどうか、事実を認めるか否認するかを判断しなければなりません。ひき逃げ事件の場合、現場の監視カメラ映像や目撃証言、車両の損傷状況などが証拠として扱われます。また、逃走した理由が飲酒や無免許運転、薬物使用であった場合、これらが罪を重くする要因となり得ます。
なお、取り調べでは供述調書が作成され、被疑者が確認して署名・押印を求められます。供述内容に異議がある場合には署名を拒否することも可能です。供述調書は裁判において証拠として利用されるため、供述するかどうか、署名押印するかどうかの判断を慎重に行う必要があります。
4-5. 起訴か不起訴の判断
検察は勾留期間中に収集された証拠や供述内容をもとに、被疑者を起訴するか不起訴にするかを判断します。ひき逃げ事件では、被害者が重傷を負っていたり死亡していたりする場合や、悪質な逃走が行われた場合には、起訴される可能性が高くなります。特に飲酒運転や無免許運転が伴っていた場合、悪質性が認められるため、起訴される確率がさらに上がります。不起訴処分となる場合もありますが、これは主に軽微な事故であり、被疑者が反省の意を示し、被害者と示談が成立している場合などが多いです。また、過失の度合いや逃走の動機、被疑者の性格や社会的な状況も不起訴の判断に影響を与えます。過失がないことの証拠を収集したり、被害者と示談をすることが不起訴獲得のために重要な弁護活動となります。
4-6. 起訴後の流れと裁判
起訴された場合、被疑者は被告人という立場になり、刑事裁判にかけられます。起訴後は、弁護人は検察官から開示された証拠を検討し、主張を組み立てます。裁判では、ひき逃げ事件に関する書類の取調べや証人尋問が実施され、被告人質問が行われます(ケースによっては被告人質問を行わないことも選択肢のひとつです)。裁判官は証拠に基づいて事実を認定し、有罪の立証が足りていると判断した場合も、事件の悪質性や被害者の怪我の程度、被告人の反省の程度や示談の成立の有無などを考慮し、量刑を決定します。
4-7. 判決とその後
裁判が終了すると、判決が言い渡されます。ひき逃げ事件で有罪が確定した場合、量刑は懲役刑や罰金刑が科されることが多く、悪質性の高いケースでは執行猶予がつかずに実刑判決となる場合もあります。
判決が不服な場合には控訴が可能であり、上級審に再審理を求めることもできます。
5.ひき逃げで依頼できる弁護士の種類
それでは、ひき逃げで逮捕されてしまった場合、どんな弁護士を選べばよいのでしょうか。下記の方法が考えられます。
- 当番弁護士:逮捕後、警察署で無料の法律相談を受けられる「当番弁護士制度」を利用できます。当番弁護士は初回無料で対応し、ひき逃げの場合の状況を聞いてアドバイスしてくれることが多いです。各弁護士会からランダムで派遣されてくるので、どんな弁護士がくるかはわかりません。
- 国選弁護人:経済的に弁護士を依頼する余裕がない場合(流動資産50万円未満の場合)、裁判所が国選弁護人を手配してくれることがあります。国選弁護人の費用は無料ですが、逮捕後すぐには呼ぶことはできず、勾留決定後に選任されます。形式的な登録要件さえ満たせば、刑事弁護の経験や知識などは問わずに国選弁護人として仕事ができてしまいますので、担当する弁護人を選ぶことができません。
- 私選弁護人:被疑者や家族などが自ら選び契約をした弁護士のことを私選弁護人といいます。弁護士費用は自己負担となりますが、逮捕後もしくは逮捕前からすぐに依頼しアドバイスをもらうことができます。弁護士から紹介を受けたり、ご自身で法律事務所のホームページを見るなどして、より良い弁護士を探すことができるのも私選の良いところです。
また、ひき逃げ事件は刑事事件にあたるため、可能な限り刑事事件に精通した弁護士に依頼することが大切です。弁護士といっても「民事」「刑事」「企業法務」「税務」など得意分野・専門分野があるので、実際に刑事事件をほとんど扱ったことのない弁護士がいるのも事実です。①の当番弁護士や②の国選弁護士がたまたま刑事事件に精通している場合は良いのですが、そうでない場合は刑事事件に詳しい弁護士に依頼する方が良いでしょう。
6.ひき逃げを刑事事件専門の弁護士に依頼した場合の流れとメリット
ひき逃げを刑事事件専門の弁護士に依頼することで、以下のようなメリットが得られます。
早期釈放のためのアドバイス:ひき逃げで逮捕された場合、逮捕後すぐは、本人は家族や友人などと会うことができず、弁護士だけが接見(面会)に来ることができます。弁護士が本人から事実確認や事情を聴き、早期釈放や在宅捜査への切り替えができるようにするため、対応方針のアドバイスを行います。刑事事件専門の弁護士は、ひき逃げを含む刑事事件の捜査や裁判の流れ、証拠の取り扱い、取調べでの対処方法などに精通しており、この専門知識があるため、事件の状況に応じた適切な戦略を立てることが可能です。不利な証拠を作らせないことが非常に重要です。取り調べや捜査の過程で不当な扱いがあった場合には、弁護士が問題点を指摘し、違法な取り調べの排除を求めます。
警察・検察との交渉:刑事事件の経験が豊富な弁護士は、警察や検察と交渉するスキルがあり、早期釈放や起訴の回避、在宅捜査への切り替えを目指して働きかけることができます。事件の内容や被疑者の状況に応じて、可能な限り有利な結果が得られるように調整します。
証拠の精査と状況の分析:刑事事件専門の弁護士は、証拠や証言の信ぴょう性、また被疑者に有利な証拠がないかを徹底的に調べます。たとえば、ひき逃げの動機やその場で止まれなかった事情がある場合、弁護士はそれらの事情を明らかにして、法的な弁解ができるように手助けします。
被害者との示談交渉:ひき逃げ事件では、被害者との示談成立が大変重要です。刑事事件専門の弁護士が間に入ることで、スムーズに示談交渉が進められ、被害者が受けた損害に対する賠償を適切に行えます。示談が成立すると、処罰の軽減や不起訴の可能性が上がります。
刑罰の軽減または不起訴の可能性:認め事件の場合、刑事事件に精通した弁護士は、裁判所に対して有利な情状(反省や更生意欲、家族の支援など)を説得的に伝え、刑罰の軽減を目指します。ひき逃げの証拠を精査して無罪を主張する余地があると判断すれば、法廷で無罪を主張することもあるでしょう。起訴前の段階であれば、被害者との示談を積極的に進めて被害回復を目指したり、証拠が不足していることを前提に捜査対応をきちんとしたりすることで、不起訴処分の獲得を目指します。
ひき逃げ事件は、被害者や社会に与える影響が大きいため、早期の対応が重要です。刑事事件に精通した弁護士のサポートを受けることで、不安の軽減や適切な処理が行われ、より良い結果につながる可能性が高まります。
7.ひき逃げでお悩みの場合は刑事事件専門の弁護士に相談しよう
以上のとおり、ひき逃げで逮捕された場合は、刑事事件専門の弁護士に相談することが大切です。刑事事件専門の弁護士であれば、1分1秒でも早い釈放や、その時点での最善の結果を得るために、適切なアドバイスを行うことができます。ひき逃げをしてしまい、いつか逮捕されるのでではないかと不安に感じている方、ご家族がひき逃げをしてしまいどの弁護士に依頼したらよいのかわからない方、まずは刑事事件専門の弁護士にご相談ください。
-
メールフォームからお問い合わせ
-
お電話からお問い合わせ
03-6772-3587平日9:00~18:00