薬物四法とは?2024年12月施行の大麻取締法改正についても解説
薬物犯罪は、社会において非常に深刻な問題として取り扱われており、その違法性や刑罰は、各種法律によって厳格に規定されています。日本における薬物犯罪は、主に麻薬、大麻、覚醒剤などの違法薬物に関するもので、それぞれの薬物に対して適用される法律と刑罰が異なります。
今回の記事では、日本における薬物を取り締まる法律と、違反した場合の刑罰、2024年12月12日に施行予定の「大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律」についても触れていきます。
1.日本における薬物犯罪-薬物四法(五法)
一概に薬物といっても麻薬・大麻・覚醒剤など種類は様々です。これらの薬物は1つの法律で禁止されているわけではなく、それぞれ適用される法律が異なります。
薬物犯罪には、通称薬物四法(五法)といって、主な薬物を取り締まる法律があります。①「覚せい剤取締法」②「大麻取締法」③「あへん法」④「麻薬及び向精神薬取締法」までを薬物四法、⑤「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等に関する法律」を加えたものを通称薬物五法といいます。それぞれの法律の詳細をみていきます。
1-1.覚醒剤取締法
1-1-1. 覚醒剤とは
覚醒剤とは、通常、アンフェタミン類とその誘導体であるメタンフェタミンを指します。これらは中枢神経系に強い刺激を与え、一時的に疲労感を減少させ、覚醒作用をもたらすため、疲労回復や集中力の向上を目的に乱用されることがあります。しかし、長期的な使用は精神障害や心身の崩壊、社会的問題を引き起こすことが明らかになっています。覚醒剤取締法では、これらの物質を厳しく制限し、医療以外での使用を禁止しています。
1-1-2. 規制内容と刑罰(覚醒剤取締法第41条)
覚醒剤取締法では、覚醒剤の製造・輸出入・譲渡・譲受・所持・使用を規制し、違反者には以下の通り厳しい罰則が科されます。
(1)覚醒剤の所持・使用・譲渡・譲受の禁止
個人が覚醒剤を所持または使用することは、刑事罰の対象となります。覚醒剤を所持すること自体が違法行為とされ、警察は覚醒剤を見つけ次第、所持者を逮捕する権限を持っています。
覚醒剤を所持・使用・譲渡・譲受した場合、10年以下の懲役が科せられます。また、営利目的で覚醒剤を所持していた場合は、さらに重い処罰が科され、1年以上の有期懲役に加え罰金刑が科される可能性があります。
(2) 覚醒剤の製造・輸入・輸出の禁止
覚醒剤を製造、輸入、輸出することは禁止されています。医療や学術研究のために覚醒剤を使用する場合には、厳格な手続きと監督の下で行われる必要があります。覚醒剤の製造、輸出または輸入に関与した場合は、1年以上の有期懲役が科されます。ただし、営利目的でこれらの行為を行った場合、3年以上から無期懲役、罰金が併せて課されることもあります。営利目的での覚醒剤の密輸は重大事件ですので、裁判員裁判対象事件となります。
1-2.大麻取締法
1-2-1. 大麻とは
大麻は、アサ科の植物で、その種子、葉、茎、花などがさまざまな用途で利用されます。大麻には、産業用と薬用、嗜好用の用途があり、その主な成分が精神作用を持つTHC(テトラヒドロカンナビノール)であり、多量摂取で陶酔感、リラックス効果、食欲増進、時間感覚の変化などを引き起こすことがあります。しかし、過剰摂取や長期使用は、精神的依存、記憶力の低下、認知機能障害のリスクを伴います。
1-2-2. 大麻取締法の規制内容と刑罰
大麻取締法は、日本において大麻の不正な栽培・所持・譲渡・譲受・輸出入などを規制するために制定された法律です。大麻取締法では、以下の行為が禁止されています。
(1)許可のない大麻の栽培の禁止
大麻を許可なく栽培することは、厳しく禁じられています(大麻取締法第3条)。栽培を行うには、都道府県知事の許可を得る必要があり、許可を得た者(例:大麻栽培者免許保有者)以外が栽培した場合、違法となります。無許可での栽培は、7年以下の懲役が科されます(大麻取締法第24条の2)。
(2)大麻取扱者以外の大麻の所持・譲渡の禁止
許可なく大麻を所持、譲渡する行為も違法です(大麻取締法第3条)。個人が大麻を持っている、他者に渡すことは違法であり、5年以下の懲役が科されます(大麻取締法第24条)。さらに、営利目的でこれらの行為を行った場合には、7年以下の懲役に加えて、罰金が併せて科される場合があります。
(3)無許可での大麻の輸出・輸入の禁止
大麻の輸出入に関しても、厳しい制限が課されています。無許可で大麻を輸出または輸入した場合、7年以下の懲役、営利目的であれば10年以下の懲役と罰金が科されます(大麻取締法第24条の2)。
1-2-3. 2024年12月施行 大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律
大麻取締法では、医療用または産業用としての例外的な使用に関しても非常に厳しく管理されています。大麻草の茎および種子部分は、産業用(麻繊維や種子の加工)としての利用が認められている場合がありますが、それでも栽培や取扱いには免許が必要です。医療用大麻に関しても、日本では一般的に認められておらず、医療目的での使用を許可されている国々とは異なり、日本では医師による処方も禁止されていました。
しかし、近年世界各国で医療用大麻の使用が合法化される動きが広がっていることから、2024年12月施行予定の「大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律」により、日本でも大麻草原料の医薬品の利用が合法化されることになりました。一方で、改正法では、大麻の使用を禁止する「大麻使用罪」が新設され、違法に大麻を使用した者に対しても刑事罰が科されるようになります。医療用大麻の合法化を進める一方で、大麻の違法使用に対する取締りを強化するものであり、この度の改正は日本の大麻政策において重要な転換点となります。
改正法の主なポイントは下記のとおりです。
(1) 医療用大麻の合法化
改正法の最も重要なポイントは、前述のとおり、医療用大麻の使用が合法化されることです。これにより、特定の疾患に対して医師の指導のもとで大麻を使用することが可能となります。特に、がんや神経系疾患、てんかんなどの治療において、大麻が有効であるとされるケースにおいて、医療現場での使用が認められることになります。医療用大麻の使用には、厳格な管理が求められ、適切な資格を持つ医師のみが処方できるようになります。また、患者は国の認可を受けた製品のみを使用でき、違法な大麻製品を所持・使用した場合には依然として罰則の対象となります。
(2) 大麻使用罪の新設
これまでの大麻取締法では、大麻の所持、栽培、譲渡などが処罰の対象となっていましたが、使用自体を処罰する規定がありませんでした。しかし、近年の大麻使用の増加に伴い、使用そのものを犯罪とする必要性が提起されていました。これにより、所持していなくても大麻を使用した事実が確認された場合には、懲役刑や罰金が科される可能性があります。特に、若年層による乱用が懸念されており、教育や啓発活動とともに、厳格な法執行が行われる見通しです。
1-3.あへん法
1-3-1. あへんとは
あへん(阿片)は、ケシの植物から得られる樹脂状の物質で、その主要な成分はモルヒネやコデインなどのアルカロイドです。これらは強力な鎮痛作用を持つ一方で、長期的な使用によって強い身体的・精神的依存を引き起こします。また、モルヒネは、医療用麻薬として鎮痛薬や麻酔薬としても使用されており、医療の分野では重要な役割を果たしていますが、非医療的な使用は厳しく制限されています。あへんは、摂取すると快感をもたらし、精神的な高揚感を引き起こすことがあるため、娯楽的な目的で乱用されることがありました。しかし、乱用者は依存症に陥り、身体的・精神的な健康を損ない、最終的には社会生活を送ることが困難になることが多く危険です。
1-3-2. あへん法の規制内容と刑罰
あへん法は、あへんの製造・輸出入・譲渡・譲受・所持・使用を制限し、違反者に対して厳しい罰則を科すことを目的としています。あへん法では以下のような行為が禁止されています。
(1) 無許可でのあへんの製造・輸入・輸出の禁止
あへん法では、あへんの製造、輸入、輸出が原則として禁止されています。ただし、医療や学術研究のために限り、特別な許可を得た場合にのみ使用が認められます。これにより、あへんが合法的に市場に出回ることを防ぎ、乱用を抑制しています。無許可であへんを輸出した場合、違反者には、1年以上10年以下の懲役刑が科され、営利目的の場合は1年以上の有期懲役刑に加えて罰金刑が科される場合があります。
(2)無許可でのあへんの栽培の禁止
無許可であへんの栽培を行った場合は、1年以上10年以下の懲役が科されます。また、営利目的での栽培は1年以上の有期懲役及び五百万円以下の罰金対象となります。
(3) あへんの譲渡・譲受・所持・使用の禁止
個人があへんを所持したり、使用したりすることは厳しく禁止されています。あへんの所持自体が違法行為とされ、違反者は刑事罰の対象となります。この規定により、あへんが非合法的に流通することを防止しています。あへんを所持または使用した場合、7年以下の懲役が科されます。
1-4.麻薬及び向精神薬取締法
1-4-1. 麻薬及び向精神薬とは
麻薬は、主にアヘン、コカイン、ヘロイン、モルヒネなど、中枢神経系に影響を与え、強い鎮痛や快感をもたらす物質を指します。これらの物質は、医療用として厳格に管理されている一方で、乱用によって重篤な依存症や健康被害を引き起こします。一方、向精神薬は、精神状態や行動に影響を及ぼす薬物の総称で、抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬などが含まれます。これらの薬物も適切に使用されれば医療において不可欠な役割を果たしますが、乱用されると精神的な依存や健康への悪影響が生じます。
1-4-2. 麻薬及び向精神薬取締法の規制内容と刑罰
麻薬及び向精神薬取締法は、日本における麻薬および向精神薬の製造・輸出入・所持・使用・譲渡・譲受を厳格に規制するために制定された法律です。正式には「麻薬及び向精神薬取締法」と呼ばれ、略して「麻向法」や「麻薬取締法」とも言われます。
麻薬及び向精神薬取締法は、麻薬と向精神薬の不正な製造、取引、所持、使用を防止し、これらの薬物が正当な目的でのみ使用されるように管理することを目的としています。また、この法律には、医療機関や研究機関による正当な使用を例外として認める規定も設けられており、適切な許可を受けた場合には厳格な監督の下で麻薬や向精神薬を使用することが可能です。具体的な禁止行為や刑罰は以下のとおりです。
(1) 製造・輸入・輸出の禁止
麻薬や向精神薬の製造、輸入、輸出は、政府の許可を得た特定の企業や機関に限定されており、それ以外の者がこれらの行為を行うことは違法です。無許可での製造や輸出入に関わった場合、麻薬の種類により1年以上20年以下又は1年以上10年以下の懲役、営利目的でこれらの行為を行った場合、最大で無期懲役が科されることがあります。(向精神薬の不正輸出入等は5年以下の懲役。)
(2) 所持・使用の規制
麻薬や向精神薬の個人による所持や使用も厳しく規制されています。これらの薬物を医師の処方や適法な許可なく所持したり使用したりすることは違法であり、発覚すれば麻薬などの種類により10年以下または7年以下の懲役、営利目的の場合は1年以上20年以下又は1年以上10年以下の懲役が科されます。(向精神薬を譲渡目的で所持した場合は3年以下の懲役。)また、医療機関で使用する場合でも、詳細な記録を保持し、定期的な監査を受けることが求められます。
(3) 処方箋と管理
向精神薬は、医師の処方によってのみ合法的に使用されることが認められており、医療従事者には厳しい管理責任が課せられています。医師や薬剤師などの医療従事者が麻薬及び向精神薬取締法に違反した場合、資格停止や取消処分を受けることがあります。また、過剰処方や不正な処方箋の発行が行われた場合、刑事罰や行政罰が科されることがあります。
1-4-3.薬物使用とオーバードーズ
オーバードーズとは、薬物を適切な量を超えて摂取しすぎることによって身体に深刻な影響が出る状態を指し、違法薬物や、処方薬を適切な使用量を超えて摂取した結果として発生します。近年話題にあがるのが後者の処方薬、例えば風邪薬を大量摂取したことによるオーバードーズです。風邪薬に含まれる成分が幻覚や陶酔感を引き起こすことがあり、このような精神作用を得たいがために風邪薬を大量摂取し、オーバードーズを起こす事件・事故が若年層でも多発しています。
風邪薬自体の所持・使用はもちろん合法ですが、風邪薬(もしくは本来用法容量を守っていれば違法性の全くない市販薬・処方薬)を精神作用を目的に故意に多量に摂取する場合、麻薬及び向精神薬取締法における「薬物乱用」や、薬事法(薬品の販売、製造、流通に関する法律)の「不正使用」に該当し、違法行為として法的措置が取られる可能性があります。
1-5.国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等に関する法律
この法律は、正式名称が非常に長いため、一般的には「国際協力麻薬防止法」などと略して呼ばれます。この法律は、麻薬や向精神薬などの規制薬物に関する不正行為を防止し、国際的な協力のもとでこれらの薬物に関する犯罪を取り締まることを目的としています。国際的な薬物犯罪は、国家の枠を超えて行われることが多いため、国内の規制だけでは限界があり、国際社会との協力が不可欠です。この法律の制定背景には、国際的な薬物問題の深刻化があります。麻薬の密輸や密売、インターネットを利用した違法取引など、国境を越えた規制薬物に関わる犯罪が増加しているため、各国が協力して取り締まりを強化する必要性が高まってきました。日本も、このような国際的な犯罪に対処するため、国内法を整備し、国際的な協力体制を強化しています。
具体的には、麻薬や向精神薬、覚醒剤などの規制薬物に関わる不正行為を助長する行為に対して、厳しい規制が設けられています。以下のような行為が特に問題視され、取り締まりの対象となります。
(1) インターネットを利用した薬物取引の防止
インターネットの普及により、暗号化された通信やダークウェブを通じて、違法薬物の取引が行われるケースが増加しています。これに対応するため、インターネットを介した薬物の売買、広告、勧誘行為を違法とし、サイト運営者や広告主に対して厳しい罰則を課す規定が設けられています。
(2) 資金提供や物流の制限
規制薬物の取引に資金や物流を提供する行為も、この法律では違法とされています。例えば、違法薬物の取引を支援するための資金提供や、薬物の輸送を助ける行為などが該当します。これにより、薬物犯罪を支えるインフラを根本的に断ち切ることが目的です。
(3) 国際的な協力捜査
他国の捜査機関と協力して、国際的な麻薬犯罪を摘発するための取り組みも強化されています。日本国内で発覚した違法取引の情報を国際機関や他国の捜査機関と共有し、国際的な麻薬取締の一環として国内法を適用していきます。また、外国人が日本国内で規制薬物に関わる犯罪を行った場合でも、国際的な司法協力を通じて適切な処罰が行われる体制が整備されています。
2.薬物犯罪で逮捕されてしまったら
上記1.のとおり、薬物犯罪は薬物五法により厳しく取り締まられており、日本においては、諸外国より刑罰も重く設定されている場合があります。
当事務所では、故意に薬物犯罪をおかしてしまった事案をはじめ、自身は知らずに「運び屋」となってしまった事案、違法薬物と知らずに販売してしまった事案など、さまざまな事案に対応してきました。
捜査訴追手続の中で、自身の権利を守るためには、弁護士の助言が非常に重要な役割を果たします。警察や検察の取り調べでは、間違った発言をしてしまうことが後に不利な証拠となる可能性があります。供述をすること自体が捜査機関に情報を与え、補充捜査を促すことにも繋がることがありますので、状況に応じて黙秘を選択することもあります。ケースによっては、黙秘を貫くことで不起訴処分を獲得できることもあります。可能な限り早めに弁護士に依頼しておけば、捜査状況や証拠の有無など様々な要素を検討する中で、最善の防御をすることがでできます。たとえ罪を犯してしまった場合でも、状況や事情に応じて刑罰が軽減される可能性もあります。例えば、違法薬物の使用に依存的になっていたり、違法薬物の密輸に関与させられてしまった特別な事情があったりした場合、弁護士はこれらの裏付けとなる証拠を収集・作成し、裁判所を説得することで、より軽い処罰を目指すことができます。
薬物犯罪は、初動が大切です。あなたや大切なご家族が薬物犯罪で逮捕されてしまった場合、まずはお電話ください。すぐに接見に行き、お話しをお伺いしたうえで、その時点で最善のアドバイスをいたします。
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