子どもが逮捕されたら|弁護活動で特に気を付けるべきポイントも解説
もしもあなたの大切なお子様が逮捕されてしまったら、どうすればよいのでしょうか。20歳未満の若者(少年)が犯罪行為をした場合、成人とは異なる手続きが取られます。今回は、少年事件の逮捕から処遇までの一般的な流れと少年事件における弁護活動、2022年に改正された少年法について説明します。
1. 少年事件の流れ
1-1. 逮捕
少年が犯罪を犯したと疑われる場合、警察によって逮捕されます。逮捕の要件は成人と同じで、現行犯逮捕や逮捕状による逮捕が行われます。ただし、未成年に対しては、成人の場合に比べて逮捕を慎重に行う傾向があります。逮捕後、警察は未成年の保護者に連絡を行い、逮捕の事実を知らせます。
1-2. 取調べ
警察署に連行された後、少年は取り調べを受けます。取り調べの際は、法的な建前としては人権が保障され、強要や脅迫は禁じられています。また、取り調べの際には未成年の権利が十分に守られるよう、慎重に対応されるものとされています。取調べにより身柄の勾留が必要と判断された場合は、検察官により勾留請求が行われますが、20歳未満の少年が被疑者の場合には、勾留状はやむを得ない場合にしか発することはできないとされています(少年法第48条第1項)。しかし、この「やむを得ない場合」という要件は、実務上緩やかに判断されているので、少年の場合も成人とほぼ同じ基準で勾留が認められています。また、少年事件の場合、勾留に代わり観護措置がとられることもあります。この場合、少年鑑別所に収容されます。勾留に代わる観護措置の期間は10日間に限られ延長はありません。この段階で、弁護士に相談する権利もあります。保護者が依頼することもありますし、経済的な理由で依頼できない場合は、国選弁護人が選任されることもあります。
1-3. 家庭裁判所への送致または釈放
取り調べの後、未成年の犯罪の性質や状況に基づき、以下のいずれかの対応が取られます。
釈放: 軽微な犯罪や証拠不十分の場合、警察は未成年を釈放し、自宅に帰すことがあります。家庭での対応が妥当と判断された場合も釈放されます。
家庭裁判所への送致: 重大な犯罪や、保護が必要と判断された場合、未成年は検察を経由せず直接家庭裁判所に送致されます(全件送致主義)。少年事件のほとんどが家庭裁判所に送致されます。
1-4. 家庭裁判所での観護措置
家庭裁判所送致後は、審判を行う必要がある場合、観護措置がとられます(少年法17条1項2号)。観護措置がとられるのは、鑑別の必要性が高いケースが多いです。鑑別とは、医学、心理学、教育学、社会学などの専門的知識や技術に基づいて、少年の非行等に影響を及ぼした資質上及び環境上問題となる事情を明らかにした上、その事情の改善に寄与するため、適切な指針を示すことです。鑑別所で収容される期間は、原則として2週間とされていますが、継続の必要があるとして4週間収容されるケースが多いです。重大事件ではさらに延長されることもあります。なお、観護措置の必要がないと判断された場合は、釈放され、在宅事件となりますので、日常生活を送ることが可能になります。
1-5. 調査
家庭裁判所送致後の観護措置がとられた後は、家庭裁判所の調査官が、未成年の生活環境、学校や家庭での状況、性格、過去の問題行動などを調査します。この調査結果は、裁判官が最終的な判断を下す際の重要な材料となります。
1-6. 少年審判
審判開始が決定した場合、家庭裁判所に送致されてから4週間以内に少年審判が開かれます。少年審判とは,罪を犯した少年などに過ちを自覚させ、更生させることを目的として、本当に非行を犯したかどうかを確認した上、非行の内容や個々の少年の抱える問題性に応じた適切な処分を選択するための手続です。そのため、少年法は、審判の手続を原則非公開とするとともに、審判の進め方について、「懇切を旨として、和やかに行うとともに、非行のある少年に対し自己の非行について内省を促すものとしなければならない」と定めています。(最高裁判所HPより抜粋) 少年を過度に緊張させないため、検察官は出席せず、基本的に裁判官、書記官、調査官、付添人、少年、少年の保護者で行われます。
1-7. 処遇の決定
家庭裁判所は、審判の結果に基づき、未成年に対して次のような処遇を決定します。
- 不処分
家庭裁判所が少年事件を審理した結果、少年に対して特に処分を下さないことを選択する場合です。以下のような場合に適用されます。
- 犯罪の内容が軽微であり、少年に十分な反省が見られる
- 家庭や学校などでの指導が適切に行われる見込みがある
不処分の場合、少年は自由に戻され、特別な法的監督下に置かれることなく生活を続けます。
- 保護観察処分
保護観察処分は、少年が家庭や社会に戻った上で、保護観察官や民間の保護司からの指導・監督を受けながら生活を続ける処分です。保護観察は、更生と社会復帰を目指して行われ、定期的な面談や指導に従うことが求められます。保護観察期間中は、以下のような生活指導が行われます。
- 定期的な面接
- 日常生活や進学、就職に関するアドバイス
- 生活態度や行動に対する監督
保護観察処分は、更生の可能性が高い場合に選ばれ、社会の中で健全な生活を取り戻すことが目的です。
- 児童自立支援施設送致(都道府県知事送致)
児童自立支援施設は、家庭内での指導や保護が難しいと判断された少年が送致される施設です。ここでは、生活指導や教育プログラムを通じて、少年の自立を促す取り組みが行われます。施設では、以下のような支援が提供されます。
- 基本的な生活習慣の指導
- 学校教育や職業訓練
- 生活態度の矯正や精神的なケア
施設に送致された少年は、一定期間(数カ月から数年)そこで生活し、社会復帰のための準備を整えます。
- 少年院送致
少年院は、犯罪の性質や少年の問題行動が重大であると判断された場合に適用される処分です。少年院は、法務省の管轄下にあり、特に犯罪性が高く、再犯のリスクがある少年が収容されます。少年院では、以下のような矯正教育が行われます。
- 教育や職業訓練を通じた更生プログラム
- 規律ある生活の中での自己改善
- 犯罪に至った原因の分析や反省を促す教育
少年院送致は、家庭環境での指導が難しく、保護観察や児童自立支援施設での処遇が不十分と判断された少年に対して行われます。
少年院には、以下のような種類があります。
- 初等少年院: 軽微な非行を犯した少年や短期間での矯正が見込まれる少年を対象としています
- 中等少年院: 中程度の非行を犯した少年が収容され、長期間にわたって矯正教育が行われます
- 特別少年院: 凶悪犯罪などを犯した少年が収容され、より厳格な矯正教育が行われます
- 検察官送致(逆送)
家庭裁判所が事件を審理した結果、特に重大な犯罪を犯した少年に対しては、「検察官送致」または「逆送」と呼ばれる処分が下されることがあります。これにより、少年事件としてではなく、成人と同じ刑事裁判で裁かれることになります。検察官送致が行われるのは、以下のような場合です。
- 重大な犯罪(殺人、強盗、強姦など)を犯した場合
- 18歳以上の少年が重大犯罪を犯した場合
- 再犯の可能性が高く、更生の見込みが低いと判断された場合
検察官送致されると、通常の刑事裁判にかけられ、成人と同様の刑罰が科されることがあります。例えば、懲役刑や実刑判決が下される可能性もあり、少年法の保護を受けることはできなくなります。
- 試験観察
試験観察は、家庭裁判所が少年の更生の可能性を見極めるために、一定期間少年の行動を監督する制度です。試験観察中、少年は家庭や学校に戻り、日常生活を送りながら観察されます。この間、調査官や保護観察官が少年の生活態度を評価し、その後の処遇を決定します。試験観察の期間中に問題がなければ、不処分や軽い処分が下されることが多いです。
2. 少年事件における弁護活動
少年事件における流れは上記1.のとおりですが、手続が成人の場合と大きく異なるため、特に専門性が要求されます。
また、大人と比べ少年は経験や知識など様々な面で未熟な傾向にあり、取調べの際などには適格なアドバイスが必要となります。事件が家庭裁判所に送致されたあとも、弁護士は、付添人という立場で裁判所に対し働きかけ意見することができます。
もし、あなたの大切なお子様が事件を起こしてしまった場合には、更生のために何をすればよいのか、早い段階から弁護士が関与し、的確な行動を取ることが重要です。以下に、少年事件における弁護活動で特に気を付けるべきポイントをまとめました。
2-1. 少年の心理状態と背景に配慮する
少年は精神的にも未熟であり、心理的なサポートが重要です。事件に至るまでの経緯や背景を十分に理解し、少年の内面に寄り添った対応が必要です。
- 心理的サポート: 少年は自分の感情を適切に表現できない場合が多く、恐怖や不安、罪悪感で混乱していることも少なくありません。少年との信頼関係を築くために、まずは安心感を与え、自己開示を促すことが大切です。
- 家庭環境や生活背景の調査: 多くの少年事件では、家庭環境や学校での人間関係、経済状況などが事件に影響を与えることがあります。これらの背景を把握し、弁護方針に反映させることが重要です。
2-2. 更生に向けた具体的な提案を行う
少年事件では、少年の更生が主な目的であり、処分がその目的に沿って決定されます。弁護人は、少年が更生できる具体的な方法を裁判所に示すことが求められます。
- 生活改善プランの提案: 少年が家庭に戻る場合、生活環境や生活態度の改善プランを提示し、更生の見込みがあることを示します。たとえば、保護観察の下での生活指導や、学校や職業訓練施設への復帰の道筋を具体的に示すことが有効です。
- 支援体制の整備: 家庭内での支援が難しい場合は、福祉施設や民間の支援機関と連携し、少年をサポートできる体制を構築する提案を行います。
2-3. 家庭との連携と指導
少年事件では、家庭環境が更生に大きく影響するため、家族との連携が不可欠です。特に、家庭裁判所は少年を家族と共に更生させることを重視するため、家族がどのように少年を支えるかが重要な判断材料となります。
- 家族の協力を引き出す: 家庭内での支援が適切に行われるかを確認し、家族が少年の更生に積極的に関わるよう働きかけます。場合によっては、家族への指導やサポートも必要です。
- 家族との面談を重ねる: 家族が事件後どのように対応し、再発防止のために何をするかを確認し、必要な場合には改善の助言を行います。
2-4. 適切な処分を求めるための調査と証拠収集
少年事件の処分には前述のとおり多様な選択肢があり、少年院送致や保護観察などの処遇が決定されます。弁護人は、少年にとって最も適切な処分を得るために、事件の状況や少年の反省の度合い、環境改善の可能性を具体的に示す必要があります。
- 家庭環境の調査: 家庭裁判所の調査官と協力し、少年の家庭環境や学校生活の実態を正確に把握します。場合によっては、改善が必要な点を提起し、家庭や学校でのサポートを強化する提案を行います。
- 少年の反省の証明: 少年が真剣に反省し、再犯のリスクが低いことを示すため、少年本人の反省文やカウンセリングの記録、家族の誓約書などの証拠を提出します。
2-5. 法的手続きの迅速かつ丁寧な対応
少年事件の手続きは、成人の刑事裁判とは異なり、家庭裁判所の審判が中心です。家庭裁判所は、少年の個別事情を丁寧に審理するため、弁護人はこれに応じた準備と対応が求められます。
- 家庭裁判所との協力: 家庭裁判所は少年の保護と更生を目的としているため、弁護人は裁判所と協力しながら、少年に最適な処遇を模索します。調査官との連携を強化し、少年の状況を詳細に伝えることが大切です。
- 少年審判の特徴を理解する: 少年審判は公開されない非公開の手続きで行われ、裁判官や調査官が少年の生活環境や反省の状況を重視します。この点を踏まえて、弁護人は裁判所に対して適切な主張を行うことが求められます。
2-6. 少年の意思を尊重する
少年事件において、弁護人は少年の意思を尊重しつつも、未熟な判断や感情に左右されないよう配慮する必要があります。少年がどのように感じているかを十分に理解し、適切な助言を行うことが重要です。
- 少年とのコミュニケーション: 少年と定期的に面談を行い、彼の希望や不安を聞き取ります。ただし、感情に流されることなく、法的な助言や現実的な処遇について冷静に説明します。
- 将来へのアプローチ: 少年にとって、更生後の生活や社会復帰が重要です。事件の処理が終わった後も、どのように生活を再建していくか、将来に向けたアプローチを少年に示します。
2-7. 被害者との関係改善
少年事件では、被害者との関係が少年の処遇に影響を与える場合があります。被害者がいる事件では、謝罪や賠償といった対応が更生の一環とみなされるため、被害者との関係改善も考慮すべきです。
- 謝罪や和解の提案: 被害者がいる場合、少年の反省の意思を示し、誠意を持って謝罪や和解を行うことが、裁判所に対する好材料となることがあります。少年や家族にその重要性を理解させ、適切な対応を促します。
2-8. 社会的支援機関との連携
少年事件では、社会復帰をサポートするために福祉や教育機関と連携することが重要です。これにより、少年の更生を支援するための包括的なサポート体制を構築します。
- 保護観察所や児童相談所との協力: 少年が保護観察処分を受けた場合や、施設送致された場合は、これらの機関と協力して適切な対応を継続します。
- 更生プログラムへの参加: 教育や職業訓練プログラムに参加することは、少年の再犯防止に向けた重要なステップです。弁護人として、これらのプログラムを活用し、更生のための道筋を提案します。
2-9. 少年事件の弁護活動 まとめ
当事務所では、少年事件を多数扱ってきました。少年事件における弁護活動では、少年の更生を第一に考え、家庭や学校、社会全体との連携を強化することが重要です。少年の心理的なサポートや家庭環境の改善、更生プランの具体化に加え、法的手続きにおいても迅速かつ丁寧な対応を行い、最適な処遇を目指します。また、社会復帰に向けた支援体制を整え、少年が再び健全な生活を送れるようなサポートを継続して行うことが求められます。
3. 少年法改正
2022年4月に施行された少年法の改正は、我が国の少年犯罪に対する法的対応の大きな転換点となりました。日本では長らく、少年犯罪者に対して更生の可能性を重視した寛容な処遇が取られてきましたが、近年の少年犯罪の凶悪化や社会の厳しい声に応える形で、少年法の改正が進められてきました。この改正は、特に重大犯罪に対する処遇を厳しくする点で注目されています。
3-1. 改正の背景と目的
まず、この改正の背景には、日本国内における少年犯罪の増加と、それに伴う社会的な不安がありました。少年犯罪は一時期減少傾向にありましたが、特に重大犯罪や凶悪な事件が発生するたびに社会から強い懸念が示されています。特に、被害者やその家族からは、犯罪者が未成年であるという理由だけで軽い刑罰が下されることに対する不満が強まりました。こうした声を受けて、政府はより厳しい処罰を求める動きを加速させました。改正の主な目的は、少年犯罪に対する社会的制裁の強化と、被害者救済の観点からの処遇見直しです。これにより、少年であっても重大な犯罪をした場合は、適切な刑事責任を問われることが明確化されました。
3-2. 改正の主要なポイント
- 特定少年制度の導入
成年年齢が引き下げられ、18歳、19歳の者は、社会において責任ある主体として積極的な役割を果たすことが期待される立場になりました。そこで、18歳、19歳の少年に対しては、「特定少年」という新たなカテゴリーが設けられましたが、引き続き少年法が適用され、全件が家庭裁判所に送られ、家庭裁判所が処分を決定します。ただし、原則逆送対象事件の拡大や逆走決定後は20歳以上の者と原則同様に扱われるなど、17歳以下の者とは異なる取り扱いがされます。
- 原則逆送対象事件の拡大
原則として逆送対象事件に、特定少年の犯した死刑、向きまたは短期(法定刑の下限)1年以上の懲役・禁固に当たる罪の事件が追加されました
- 実名報道の解禁
少年のときに犯した事件ついては、犯人の実名・写真等の報道が禁止されていますが、特定少年のとき犯した事件について起訴された場合には、禁止が解除されるようになりました。ただし、捜査段階(起訴前)での報道は禁止されています。
- 更生プログラムの充実
刑罰の強化だけでなく、少年の更生支援にも重点が置かれています。刑務所内外での教育プログラムや職業訓練の拡充が進められ、少年が更生し、社会復帰できるようなサポート体制が整備されています。これにより、少年が犯罪から更生し、再び犯罪をすることなく社会で活躍できるような環境作りが進められています。
3-3. 少年法改正の影響と今後の課題
この改正により、少年犯罪に対する厳罰化が進む一方で、再犯防止や更生支援の充実が求められるようになっています。厳しい刑罰を科すだけでなく、少年が犯罪を再び犯さないようにするための教育や支援が不可欠です。特に、社会復帰後のサポート体制や地域社会との連携が鍵となるでしょう。また、改正後の少年法がどのように運用されるかについても注目が集まっています。法改正だけでなく、その運用が適切に行われることが重要です。特定少年制度の導入により、少年が成人と同様の刑事裁判を受けるケースが増えることが予想されますが、その際に少年の権利が適切に保護されるかどうかも大きな課題です。さらに、少年犯罪の背景には、家庭環境や経済的な問題、学校でのいじめや孤立など、複雑な要因が絡んでいます。これらの問題に対処するためには、社会全体で少年を支援し、犯罪に至る前に防止するための対策が必要です。特に、教育現場や福祉機関の連携が強化され、早期に問題を発見し解決する取り組みが重要視されています。
3-4. 少年法改正 まとめ
2022年4月に施行された少年法の改正は、少年犯罪に対する法的対応を大きく変えるものであり、社会的な期待が寄せられています。年齢の引き下げや特定少年制度の導入により、重大犯罪に対する厳しい対応が可能になった一方で、更生支援や被害者救済にも力が注がれています。今後は、改正法がどのように運用され、少年犯罪の再発防止や被害者保護にどのような効果をもたらすのかが注目されます。また、社会全体での少年支援体制の充実が求められ、犯罪防止のための包括的なアプローチが必要となるでしょう。少年法改正の意義と課題を理解し、今後の法運用を注視することが重要です。
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