近年、ニュースやメディアで「逮捕」や「起訴」といった刑事事件に関する言葉を目にする機会が増えています。しかし、実際に刑事事件に巻き込まれた場合、どのような手続が進められ、どのタイミングで弁護士に相談すべきなのか、具体的なイメージを持っている方は少ないのではないでしょうか。
本稿では、刑事事件の基本的な流れから、事件の種類、そして信頼できる弁護士の選び方まで、分かりやすく解説していきます。これから説明する内容は、ご自身や大切な方が万が一刑事事件に関わることになった際の大切な知識となるはずです。
1. 刑事事件とは
刑事事件とは、刑法や特別法に定められた犯罪行為の疑いがある人に対して、国家が刑罰を科すかどうかを決定するための手続のことを指します。具体的には、殺人、強盗、窃盗、詐欺、傷害、痴漢、盗撮など、法律で禁止されている行為の疑いがあるとして警察に逮捕されたり、捜査の対象となったりすることを意味します。
刑事事件の特徴として、以下の点が挙げられます:
- 国家と個人の対立構造:刑事事件は、犯罪を取り締まる国家と、犯罪行為の疑いをかけられている個人との間の争いです。
- 厳格な手続:逮捕、勾留、起訴、公判など、法律で定められた厳格な手続に従って進行します。
- 高い有罪率:日本の刑事裁判では、起訴された事件の99.9%が有罪判決となります。
- 重大な結果:有罪判決を受けると、懲役刑や罰金刑などの刑罰が科され、前科が付くことになります。
刑事事件に巻き込まれると、自由を制限されたり、社会的な信用を失ったりする可能性があるため、最善の対応が求められます。
2. 刑事事件と民事事件の違い
刑事事件と民事事件は、法律問題を扱う二大カテゴリーですが、その性質や目的、手続などに大きな違いがあります。
※刑事事件と民事事件の違いについて詳しくはこちらの記事もご参照ください 。
刑事事件と民事事件の違いとは?知っておくべき5つのポイント
2-1. 当事者の違い
- 刑事事件:国家(警察・検察)と被疑者・被告人が対立します。
- 民事事件:個人同士や個人と企業など、私人間の争いです。
2-2. 目的の違い
- 刑事事件:犯罪行為に対する処罰と社会秩序の維持が目的です。
- 民事事件:個人間の権利関係の調整や損害の回復が目的です。
2-3. 適用される法律の違い
- 刑事事件:主に刑法と刑事訴訟法が適用されます。
- 民事事件:主に民法と民事訴訟法が適用されます。
2-4. 手続の違い
- 刑事事件:警察による捜査、検察による起訴、裁判所による審理という流れで進みます。
- 民事事件:原告が裁判所に訴えを提起し、被告との間で争います。
2-5. 結果の違い
- 刑事事件:有罪の場合、懲役や罰金などの刑罰が科されます。
- 民事事件:損害賠償金の支払いや契約の無効化などが命じられます。
2-6. 和解の可能性
- 刑事事件:基本的に和解はできません。ただし、示談が不起訴処分や量刑に影響を与えることはあります。
- 民事事件:当事者間の合意があれば、いつでも和解で解決できます。
このように、刑事事件と民事事件には多くの違いがありますが、一つの事件が両方の性質を持つこともあります。例えば、交通事故の場合、刑事事件として危険運転致死傷罪などが問われる一方で、民事事件として損害賠償請求が行われることがあります。
3. 刑事事件の種類と適用法律
刑事事件は、その内容によってさまざまな種類に分類されます。主な分類と適用される法律について説明します。
※各犯罪について詳しくはこちらの記事をご参照ください 。
取扱業務(犯罪類型ごとの詳細はこちら)
3-1. 刑法犯
刑法に規定された犯罪で、以下のように分類されます:
凶悪犯
- 殺人、強盗、放火、不同意性交等
- 適用法律:刑法
粗暴犯
- 暴行、傷害、脅迫、恐喝、凶器準備集合
- 適用法律:刑法
窃盗犯
- 窃盗
- 適用法律:刑法
知能犯
- 詐欺、横領、偽造、汚職、背任
- 適用法律:刑法、公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律
風俗犯
- 賭博、わいせつ
- 適用法律:刑法
その他の刑法犯
- 公務執行妨害、住居侵入、逮捕監禁、器物損壊等
- 適用法律:刑法
3-2. 特別法犯
刑法以外の法律で定められた犯罪で、主なものは以下の通りです:
薬物犯罪
- 覚せい剤取締法違反、麻薬及び向精神薬取締法違反等
- 適用法律:覚せい剤取締法、麻薬及び向精神薬取締法違反等
交通犯罪
- 危険運転致死傷、酒気帯び運転等
- 適用法律:道路交通法、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律
経済犯罪
- インサイダー取引、独占禁止法違反等
- 適用法律:金融商品取引法、独占禁止法等
環境犯罪
- 不法投棄、公害等
- 適用法律:廃棄物処理法、大気汚染防止法等
サイバー犯罪
- 不正アクセス、コンピュータウイルス作成等
- 適用法律:不正アクセス禁止法、刑法等
これらの犯罪に対しては、それぞれの法律に基づいて捜査や裁判が行われます。刑事事件の種類によって適用される法律や刑罰が異なるため、専門知識を持つ弁護士のサポートが重要となります。
4. 刑事事件の流れ
刑事事件の一般的な流れは以下の通りです。
4-1. 犯罪の発生と捜査の開始
- 被害届の提出、110番通報、職務質問などをきっかけに警察が捜査を開始します。
- 任意の取り調べや証拠収集が行われます。
4-2. 逮捕
- 犯罪の嫌疑が強い場合、被疑者が逮捕されることがあります。
- 逮捕には、通常逮捕、現行犯逮捕、緊急逮捕の3種類があります。
4-3. 警察での取り調べ
- 逮捕から48時間以内に、警察は被疑者を取り調べます。
- この段階で弁護士を依頼すると、本人と面会をして、取り調べに関するアドバイスを受けられます。
4-4. 検察への送致
- 警察は48時間以内に被疑者を検察に送致します。
- 検察官は24時間以内に釈放するか勾留請求するかを決定します。
4-5. 勾留
- 裁判官が勾留の必要性を認めた場合、最大10日間(延長可能で最大20日間)勾留されます。
- この間、検察官による取り調べが行われます。
4-6. 起訴または不起訴の決定
- 検察官は証拠に基づいて起訴するかどうかを決定します。
- 不起訴の場合、身柄拘束を受けていた被疑者は釈放されます。
4-7. 公判(裁判)
- 起訴された場合、裁判所で公判が開かれます。
- 検察側と弁護側が主張・立証を行い、裁判官が判断します。
4-8. 判決
- 裁判の結果、有罪・無罪の判決が下されます。
- 有罪の場合、刑罰が科されます。
4-9. 控訴・上告
- 判決に不服がある場合、上級裁判所に控訴・上告できます。
この流れの中で、被疑者・被告人の権利を守り、最善の弁護活動を行うためには、早い段階での弁護士の介入が重要です。
5. 刑事事件が起こった時に弁護士に依頼するべき理由
刑事事件に巻き込まれた場合、できるだけ早く弁護士に依頼することが重要です。以下に、弁護士に依頼するべき主な理由を挙げます。
5-1. 早期の身柄解放が期待できる
弁護士は、被疑者・被告人の身柄解放に向けて以下のような活動を行います:
- 勾留処分に対する準抗告
- 不起訴に向けた弁護活動
- 保釈請求
これらの活動により、早期の身柄解放の可能性が高まります。
5-2. 不起訴処分による前科回避の可能性が高まる
弁護士は以下のような活動を通じて、不起訴処分を目指します:
- 黙秘権を行使するなどの捜査対応
- 被害者との示談交渉
- 不起訴処分を求める意見書の提出
不起訴処分となれば、前科がつくことを回避できます。
5-3. 執行猶予付き判決や減刑の可能性が高まる
弁護士は、以下のような活動を通じて、より軽い刑罰を目指します:
- 被告人に有利な証拠の収集と提出
- 情状証人の手配
- 被告人の更生計画の立案と提示
これにより、執行猶予付きの判決や減刑の可能性が高まります。
5-4. 被疑者・被告人や家族の精神的負担を軽減できる
弁護士は以下のようなサポートを提供します:
- 刑事手続きの説明
- 今後の見通しの提示
- 家族との連絡調整
これにより、不安や心配を軽減することができます。
5-5. 取り調べにおいて不利な供述調書の作成を回避することが可能になる
弁護士は以下のようなアドバイスを提供します:
- 黙秘権の行使方法
- 取り調べでの注意点
- 供述調書の確認方法
これにより、不利な自白や誤った供述を防ぐことができます。
弁護士に依頼することで、刑事事件に巻き込まれた際の不利益を最小限に抑え、最善の結果を得る可能性が高まります。特に、刑事事件の初期段階での弁護士の介入が重要であり、逮捕された場合はできるだけ早く弁護士に連絡することをおすすめします。
6. 弁護士の選び方
刑事事件で弁護士を選ぶ際は、以下のポイントを考慮することが重要です。
6-1. 刑事事件の専門性
- 刑事事件の取扱実績が豊富な弁護士を選びましょう。
- 弁護士のウェブサイトや初回相談で、刑事事件の経験や実績を確認してください。
6-2. 信頼感と相性
- 初回相談で、弁護士との相性や信頼関係を築けるかを確認しましょう。
- 自分の話をよく聞いてくれるか、わかりやすく説明してくれるかをチェックしてください。
6-3. 対応の迅速さ
- 刑事事件は時間との勝負です。迅速に対応してくれる弁護士を選びましょう。
- 24時間対応可能な事務所や、緊急時の連絡方法を確認してください。
6-4. 弁護方針の明確さ
- 具体的な弁護方針を説明できる弁護士を選びましょう。
- 初回相談で、事件の見通しや戦略について詳しく聞いてください。
6-5. 事務所の所在地
- 警察署や裁判所に近い事務所の弁護士を選ぶと、迅速な対応が期待できます。
- ただし、遠方でも実績のある弁護士の方が良い場合もあるので、総合的に判断しましょう。
6-6. 費用の透明性
- 弁護士費用の内訳や支払い方法について、明確な説明を求めましょう。
- 着手金、報酬金、実費などの費用体系を確認してください。
6-7. コミュニケーション能力
- 法律用語を分かりやすい言葉で説明できる弁護士を選びましょう。
- 定期的に進捗報告をしてくれるかどうかも確認してください。
7. まとめ
刑事事件の特徴や民事事件との違いを踏まえると、刑事弁護は高度な専門性が要求される分野です。特に、事件発生直後の初動対応の迅速さが事件の帰趨を分けます。優れた刑事弁護人は、迅速な対応力に加え、事件の早期段階で事案の特性を見極め、最適な弁護戦略を構築する能力を備えています。
ご自身の権利を守るため、豊富な刑事弁護経験を持つ、刑事事件に精通した弁護士の選定をお勧めします。


お問い合わせ
Contact
まずはお気軽にご相談ください。
-
メールフォームからお問い合わせ
-
お電話からお問い合わせ
03-6772-3587平日9:00~18:00