インサイダー取引|逮捕された場合の流れや対処方法について

インサイダー取引とは、上場企業の内部者や関係者が、その立場を利用して得た未公開の重要な情報(インサイダー情報)に基づいて、自社や関連会社の株式などの売買を行うことを指します。このような取引は、一般投資家との間に不公平を生じさせ、証券市場の公正性と信頼性を損なうため、金融商品取引法によって厳しく規制されています。今回の記事では、インサイダー取引とはどういったものなのか、逮捕された場合の流れや対処方法についても詳しくご説明いたします。



目次

インサイダー取引の概要

インサイダー取引規制の対象となる者は、主に以下の3つのカテゴリーに分類されます。

  1. 会社関係者
  2. 公開買付者等関係者
  3. 第一次情報受領者

 会社関係者には、上場会社等の役員、従業員、大株主、取引先などが含まれます。また、これらの地位を離れてから1年以内の者も対象となります。

公開買付者等関係者とは、今後予定されている公開買付けの関係者が対象者となります。これは株式公開買付け「TOB(take-over-bid)」とも呼ばれており、通常の取引とは大きく異なるものです。公開買付け者が、期間・価格・予定の株数などをあらかじめ公表し、不特定多数の株主から株式市場外で株式を買い集めることを指しています。公開買付等関係者に該当する人物は、①公開買付者等の役員や代理人、その他の従業員②公開買付者等の3%以上の株式を保有している大株主など③公開買付者等に対しての法令に基づく権限を有する者(許認可の権限などを持っている公務員他)④公開買付者等の取引先や取引交渉中の相手など⑤その企業を退職してから6ヵ月以内の元会社関係者、などです。

第一次情報受領者は、会社関係者や公開買付者等関係者から直接重要事実の伝達を受けた者のことです。

インサイダー取引の対象となる重要事実は、主に以下の4つに分類されます。

  1. 決定事実 - 新株発行、合併、業務提携など、会社が意思決定した事項
  2. 発生事実 - 災害による損害、訴訟の提起、主要株主の異動など、会社の意思によらず発生した事実
  3. 決算情報 - 業績予想の大幅な変更など
  4. バスケット条項 - 上記以外の重要事実で、投資判断に著しい影響を及ぼすもの

これらの重要事実を知った会社関係者等が、その情報が公表される前に当該上場会社等の株式等の売買等を行うことが、インサイダー取引として禁止されています。

インサイダー取引規制に違反した場合、行政処分として課徴金が課されるほか、刑事罰として5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはこれらの併科という厳しい罰則が設けられています。また、2013年の金融商品取引法改正により、情報伝達行為・取引推奨行為も規制の対象となりました。これにより、重要事実を知った会社関係者等が、他人にその情報を伝達したり、取引を推奨したりする行為も禁止されています。

インサイダー取引規制は、証券市場の公正性と健全性を維持するために非常に重要な役割を果たしています。しかし、その一方で、規制の対象範囲が広く、一般の人々が思っている以上に規制の対象が広いという特徴があります。

例えば、会社の重要事実を偶然耳にしてしまった場合でも、その情報に基づいて株式取引を行えばインサイダー取引に該当する可能性があります。また、退職後1年以内の元会社関係者も規制対象となるため、退職後も注意が必要です。このように、インサイダー取引規制は非常に広範囲かつ複雑であり、一般の人々が思っている以上に厳格に適用される可能性があります。そのため、上場企業の関係者や株式投資を行う個人投資家は、インサイダー取引規制について十分な理解を持ち、常に注意を払う必要があります。また、インサイダー取引というと、不正に情報を入手し、株取引で利益を得ることを意味していると理解している方が多いでしょう。ですが、実際には株取引の結果、利益を出せず損失という場合であっても、インサイダー取引として処罰の対象になる可能性があるのです。法律の定めを正しく理解できていないと、思いがけずインサイダー取引を行ってしまって刑罰・課徴の対象になってしまうおそれがあるという点に注意が必要です。

インサイダー取引で逮捕される具体的な事例

インサイダー取引で逮捕される具体的な事例は多岐にわたりますが、ここでは代表的なケースをいくつかご紹介します。これらの事例を通じて、インサイダー取引の具体的な形態と、どのような行為が法律違反となるのか理解しましょう。

1.役員による自社株取引

上場企業の役員が、取締役会で決定された重要な経営方針(例:大規模な設備投資計画や新規事業への参入)を知り、その情報が公表される前に自社株を大量に購入するケース。この場合、役員は会社関係者として重要事実を知り得る立場にあり、その情報を利用して株式取引を行ったことがインサイダー取引に該当します。

2.従業員による情報漏洩と株式取引

上場企業の従業員が、業務上知り得た自社の好業績情報を友人に漏らし、その友人がその情報に基づいて株式を購入するケース。この場合、情報を漏らした従業員はインサイダー情報の伝達行為で、実際に株式を購入した友人は第一次情報受領者としてのインサイダー取引で、それぞれ罪に問われる可能性があります。

3.M&A関連のインサイダー取引

ある企業が他社を買収する計画を立てている際、その情報を知った関係者(例:アドバイザリー業務を行う証券会社の社員)が、買収対象企業の株式を購入するケース。M&A情報は株価に大きな影響を与える典型的な重要事実であり、このような取引はインサイダー取引として厳しく取り締まられます。

4.公開買付けに関連するインサイダー取引

ある企業が他社に対して公開買付けを行う計画を知った関係者が、その情報が公表される前に対象会社の株式を購入するケース。公開買付け情報も重要事実に該当し、このような取引もインサイダー取引として規制の対象となります。

5.決算情報に基づくインサイダー取引

上場企業の経理部門の従業員が、四半期決算の集計作業中に予想を大幅に上回る好業績であることを知り、その情報が公表される前に自社株を購入するケース。決算情報は重要事実の一つであり、このような取引もインサイダー取引に該当します。

6.退職者によるインサイダー取引

上場企業を退職した元役員が、退職後6ヶ月の時点で、在職中に知った重要な新製品開発情報に基づいて株式取引を行うケース。退職後1年以内の元会社関係者もインサイダー取引規制の対象となるため、このような取引も違法となります。

7.取引先担当者によるインサイダー取引

上場企業と大規模な業務提携を交渉中の取引先企業の担当者が、交渉過程で知った情報に基づいて、提携先となる上場企業の株式を購入するケース。取引先の担当者も会社関係者に含まれるため、このような取引もインサイダー取引として規制されます。

8.公務員によるインサイダー取引

ある上場企業の新規事業に関する許認可を担当する公務員が、許認可が下りることを事前に知り、その情報に基づいて当該企業の株式を購入するケース。公務員も法令に基づく権限を有する者として会社関係者に含まれるため、このような取引もインサイダー取引に該当します。

9.家族間での情報伝達によるインサイダー取引

上場企業の役員が、自社の業績が大幅に悪化する見込みであることを家族に漏らし、その情報を聞いた家族が保有する自社株を売却するケース。この場合、情報を伝達した役員と実際に株式を売却した家族の両方がインサイダー取引規制違反に問われる可能性があります。

10.SNSを通じた情報拡散によるインサイダー取引

上場企業の従業員が、自社の重要な新製品開発情報をSNSで友人に伝え、その情報が拡散して多数の人が株式取引を行うケースです。情報を最初に発信した従業員は情報伝達行為で、その情報に基づいて取引を行った人々は第一次情報受領者としてのインサイダー取引で、それぞれ罪に問われる可能性があります。

 

これらの事例から分かるように、インサイダー取引は様々な形態で発生する可能性があります。重要なのは、単に自分が直接的な会社関係者でないからといって安心せず、どのような立場であっても未公開の重要情報に基づく株式取引には細心の注意を払う必要があるということです。また、情報の伝達や取引の推奨も規制の対象となっているため、重要情報を知った場合は、それを他人に伝えたり、取引を勧めたりすることも控えなければなりません。インサイダー取引規制は、証券市場の公正性と健全性を維持するために非常に重要な役割を果たしていますが、その一方で規制の範囲が広く、一般の人々が思っている以上に厳格に適用される可能性があります。そのため、上場企業の関係者や株式投資を行う個人投資家は、インサイダー取引規制について十分な理解を持ち、常に注意を払う必要があります。少しでも疑問や不安がある場合は、取引を控えるか、専門家に相談することが賢明です。インサイダー取引で逮捕されるリスクを避けるためには、常に慎重な判断と行動が求められます。

インサイダー取引に関する有名な事件

村上ファンド事件

日本国内で起こったインサイダー取引における最も有名な事件が「村上ファンド事件」です。

村上ファンドの村上世彰氏が、2006年に大量に保有するニッポン放送の株を売却、上昇することを知っていました。なぜなら堀江貴文氏のライブドアが、ニッポン放送の株を大量に購入する事実を把握していたからです。村上氏は起訴され、懲役2年、執行猶予3年と300万円の罰金刑、さらに11億4900万円という膨大な追徴金を科せられました。

ドン・キホーテホールディングス前社長のインサイダー取引事件

ドン・キホーテ前社長、大原孝治氏が、公表前に自社の株を購入するようにと知人に勧めたことで逮捕。本人は利益を得ていませんが、内情を把握している立場なので、自社株の購入を勧めたことはインサイダー取引に該当します。懲役2年、執行猶予4年の判決が下され、さらにグループ内の役職全てを失いました。

NHK記者3名によるインサイダー取引事件

事件は証券取引等監視委員会がNHKに調査して発覚しました。テレビで放送される前に不正な手段で情報にアクセス、株価が上昇すると予想する株式を購入しました。当時のNHK会長と副会長、さらにコンプライアンス担当者と報道担当の理事など、多数の責任者が引責辞任することとなりました。

インサイダー取引はなぜバレる?

インサイダー取引は、結論からいうとほぼ確実にバレると言えるでしょう。会社の従業員が赤の他人に重要事実を漏らしてしまった場合でも情報受領者として規制の対象とされることも考えられます。

インサイダー取引は、東京証券取引所や証券取引等監視委員会という機関が証券取引について常に監視しています。重要事実が公表された銘柄について、市場の公正性・透明性の確保及び投資者保護の観点から監視、調査を行います。

流れとしては、株価を大きく動かす可能性のある重要情報の公表が企業からなされる前に該当の企業の株を売買した人が監視対象となります。 監視対象者が過去の記録から株価が急騰、もしくは急落する直前にのみ注文を出しているという場合、明らかにインサイダー取引が疑われ、投資者の属性情報や取引の履歴が捜査されます。捜査によって違反行為が認められた場合には、金融庁長官等に対して課徴金納付命令を発出するよう勧告される、又は金融商品取引法違反行為を裁判所へ申立てます。内部告発によってインサイダー取引が発覚したケースも多くありますので、親族や仲間内だからバレないと考えるのはとても危険です。

インサイダー取引で逮捕された場合の刑事手続きの流れ

インサイダー取引で逮捕された場合、一般的な刑事事件と同様の手続きが進行しますが、証券取引等監視委員会(SESC)が関与する点が特徴的です。以下、その流れを詳細に説明します。

1.調査開始

インサイダー取引の疑いがある取引は、まずSESCの市場分析審査課によって発見されます。SESCは日常的に市場を監視しており、不自然な取引パターンや、重要事実の公表前後の株価の動きなどを分析しています。

2.任意の事情聴取

疑わしい取引が発見されると、SESCの課徴金・開示検査課または特別調査課が調査を開始します。この段階では、まず任意の事情聴取が行われます。突然、SESCから呼び出しがあり、取引の経緯や情報の入手経路などについて詳細な質問を受けることになります。今後の捜査・訴追を念頭に置くならば、この段階で弁護士を付けることをお勧めします。SESCによる調査に関する法的アドバイスをするなどして、今後の捜査で不利な証拠を作らせないことも大切です。

3.強制調査

任意の事情聴取で十分な情報が得られない場合や、より深刻な違反が疑われる場合、SESCは強制調査に移行します。この段階では、関係者の自宅や職場の捜索、証拠物の押収などが行われる可能性があります。

4.逮捕

証拠が十分に揃い、インサイダー取引の疑いが強まった場合、被疑者として逮捕されます。インサイダー取引事件の場合、通常は東京地検特捜部が担当します。なお、逮捕後72時間以内は、弁護士以外の人物(家族を含む)との面会は困難になります。そのため、早期の段階で弁護士に相談することがとても重要です。

5.勾留

逮捕後、検察官は裁判官に勾留を請求します。勾留期間は最長23日間(逮捕後72時間以内に勾留請求、その後10日間の勾留、さらに10日間の延長が可能)です。

6.取り調べ

勾留期間中、検察官による取り調べが行われます。この間、被疑者は弁護人と接見する権利があります。

7.起訴または不起訴

検察官は証拠を精査し、起訴するか不起訴にするかを決定します。起訴する場合、公判請求(裁判を開くこと)または略式命令請求(書面審理のみで罰金刑を科すこと)のいずれかを選択します。

8.公判準備

起訴された場合、弁護人と検察官がそれぞれ公判の準備を行います。この段階で、証拠の開示や争点の整理が行われます

9.公判

裁判所で公開の法廷での審理が行われます。検察側の立証と弁護側の反証が行われ、被告人質問なども実施されます。

10.判決

証拠調べと弁論が終了すると、裁判所は判決を下します。判決に不服がある場合、控訴・上告の手続きを経て判決が確定します。有罪判決が確定した場合、刑が執行されます。ただし、執行猶予付き判決の場合は、一定期間刑の執行が猶予されます。

インサイダー取引で逮捕されることにより発生する影響

インサイダー取引は重罪です。有名な事件例を見てもわかるように、罰金刑だけに留まらず会社を解雇されてしまったり、周囲から非難されるなど非常に大きな社会的制裁を受けることになります。

刑事罰

  • 懲役刑: 5年以下の懲役刑が科される可能性があります。
  • 罰金刑: 個人の場合、500万円以下の罰金が科されます。
  • 併科: 懲役刑と罰金刑が併科される場合もあります。

金銭的制裁

  • 没収・追徴: インサイダー取引で得た利益は全額没収または相当額が追徴されます。
  • 課徴金: 行政罰として課徴金が課される場合があります。

法人への罰則

  • 法人に対しては5億円以下の罰金刑が科されます。

社会的影響(キャリアへの影響)

  • 解雇・・・勤務先からの懲戒解雇の可能性が高くなります。
  • 信用失墜・・・逮捕歴により今後の就職や転職に大きな支障が生じる可能性があります。

社会的影響(企業への影響)

  • 取引停止: 法人の場合、取引先から契約の停止を言い渡される可能性があります。
  • 信頼喪失: 顧客や取引先からの信頼を失い、ビジネス上の大きな損失に繋がります。

個人生活への影響(財産的損失)

  • インサイダー取引で得た利益だけでなく、取得した財産全体が没収・追徴の対象となる可能性があります。

個人生活への影響(社会的地位の喪失)

  • 逮捕により、これまで築いた社会生活が崩壊し、人生プランに大きな支障が生じることが考えられます。

法的手続の負担

逮捕後は、弁護士以外との接見や面会が制限されたり、長期にわたる刑事手続による精神的・経済的負担があります。インサイダー取引は重大な違法行為であり、その影響は個人の生活や企業の存続にまで及ぶ可能性があります。法令遵守の重要性を認識し、適切な情報管理と倫理的な行動が求められます。

インサイダー取引の疑いがある場合の対処法とは

インサイダー取引の疑いがある場合、適切に対処することが重要です。主な対処法としては、即時の取引停止です。インサイダー取引の疑いを感じた場合に最初に行うべきことは、関連する証券の取引を即座に停止することです。これは更なる違反を防ぎ、状況を悪化させないための重要なステップです。

次に、内部調査を実施します。会社は速やかに内部調査を開始し、重要事実の内容と発生時期・情報の伝達経路・取引の詳細(時期、量、関与者)を明らかにする必要があります。この調査は、法務部門や外部の専門家と協力して行うことが望ましいでしょう。

専門家への相談

インサイダー取引は複雑な法的問題を含むため、経験豊富な弁護士に相談することが極めて重要です。取引状況の総合的な確認、違反事実の有無の判断、適切な対応策の提案、必要に応じた当局とのコミュニケーションなどスピーディーな対応が求められます。

再発防止策の策定と実施

インサイダー取引を防止するための対策を強化することが重要です。具体的には、内部情報管理と監視体制の整備する、従業員向けの教育プログラムの実施する、インサイダー取引ポリシーの見直しと強化する、適時開示体制の改善をする、等です。

公表の検討

状況によっては、会社が自主的に情報を公表することも検討する必要があります。これは、市場の信頼を維持し、透明性を示すための重要なステップとなる場合があります。インサイダー取引の疑いに適切に対処することは、会社の評判と法的リスクを管理する上で極めて重要です。迅速かつ適切な行動を取ることで、潜在的な損害を最小限に抑え、市場の信頼を維持することができます。

 

インサイダー取引の疑いで逮捕された場合は、刑事事件専門の弁護士に相談しよう

インサイダー取引の疑いで逮捕された場合、刑事事件に精通した弁護士に相談することは重要です。主な理由を説明としては、まず【専門的な法律知識の提供】があることです。

インサイダー取引は関係者が多く、事案として複雑になりがちです。法的な整理も複雑ですので、要件該当性や違法性の判断を自分で行うのには限界があります。インサイダー取引規制の詳細な要件を説明や、被疑事実の確認と法的な位置づけの解説、取引状況を総合的に確認し、違反事実を認めるべきか否かの判断などを依頼できます。

次に刑事手続への対応です。弁護士は刑事手続の各段階で重要な役割を果たします。

例えば、証券取引等監視委員会からの呼び出しへの対応や取り調べの適切な進行管理(体調や仕事の都合を考慮)、供述調書をそもそも作成するのか。作成するとしてもその内容の確認をする必要があります。告発後は、検察官との捜査対応アドバイスをしたり、不起訴に向けた意見書の作成などを行います

また、有罪を前提とする事件であっても、刑事罰をできる限り軽くするのも弁護人の仕事です。もちろん、インサイダー取引の事実はない、あるいは、インサイダー取引に関与していないということであれば、無罪を主張して徹底的に闘います。

いずれにしましても、インサイダー取引の疑いがかかった早い段階から、弁護士に相談することが大切です。事情聴取の段階であれば、告発や起訴を見越した対応が必要です。「まだ大丈夫」と高をくくらずに、心配になったらすぐに弁護士に相談しましょう。心配が杞憂に終わるならそれでも結構ですし、重大な問題に直面しているのであれば、その時点からベストな判断をしていくことができます。まずは弁護士にご相談ください。

JIN国際刑事法律事務所

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