刑事事件に直面した際、「略式起訴」という言葉を耳にすることがあります。しかし、その意味や手続きの流れ、さらにはメリットやデメリットについて、十分に理解している方は少ないでしょう。本記事では、略式起訴について詳しく解説し、刑事事件に直面した方やその家族の皆様に役立つ情報をお伝えします。
略式起訴の概要と通常起訴との違い
略式起訴とは、検察官が簡易裁判所に対して、簡略化された手続き(略式手続)による被疑者への科刑を求めることを指します。通常の起訴(正式起訴)と比較すると、以下のような特徴があります。
略式起訴の概要と通常起訴との違い | ||
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正式起訴 | 略式起訴 | |
公開法定の有無 | 公開法定での裁判 | 非公開で書面審理のみ |
被告人の出頭 | 必要 | 不要 |
被告人の主張機会 | あり(証拠提出も可能) | なし |
科刑の制限 | 法定刑の範囲内で制限なし | 100万円以下の罰金または科料のみ |
1. 公開法廷の有無:
- 正式起訴:公開法廷での裁判
- 略式起訴:非公開で書面審理のみ
2. 被告人の出頭:
- 正式起訴:必要
- 略式起訴:不要
3. 被告人の主張機会:
- 正式起訴:あり(証拠提出も可能)
- 略式起訴:なし
4. 科刑の制限:
- 正式起訴:法定刑の範囲内で制限なし
- 略式起訴:100万円以下の罰金または科料のみ
略式起訴の要件
略式起訴が可能となる要件は以下の通りです:
- 簡易裁判所の管轄に該当する軽微な事件であること
- 刑罰が100万円以下の罰金または科料相当であること
- 被疑者が同意していること
- 簡易裁判所が相当だと判断したこと
これらの要件を1つでも満たさない場合、略式起訴はできません。
略式起訴のメリット・デメリット
略式起訴には、被疑者にとって以下のようなメリットとデメリットがあります。
略式起訴のメリット・デメリット | |
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メリット | デメリット |
事件の手続きが迅速に終了 | 前科がつく |
身柄の早期解放 | 正式な刑事裁判を受ける機会喪失 |
裁判出廷の負担軽減 | 冤罪のリスク |
刑罰の軽減 | 反省の機会の喪失 |
メリット
- 事件の手続きが迅速に終了
- 身柄の早期解放
- 裁判出廷の負担軽減
- 刑罰の軽減
1. 事件の手続きが迅速に終了:
略式起訴では、公開法廷での裁判が行われないため、通常の裁判と比べて手続きが早く終わります。
2. 身柄の早期解放:
勾留されている場合、略式起訴により早期に釈放される可能性が高くなります。
3. 裁判出廷の負担軽減:
公開法廷での裁判がないため、出廷する必要がなく、心理的・時間的負担が軽減されます。
4. 刑罰の軽減:
略式起訴で科される刑罰は100万円以下の罰金または科料に限られるため、より重い刑罰を避けられる可能性があります。
デメリット
- 前科がつく
- 正式な刑事裁判を受ける機会喪失
- 冤罪のリスク
- 反省の機会の喪失
1. 前科がつく:
略式起訴でも有罪判決となるため、前科がつきます。これは将来的に様々な面で不利益となる可能性があります。
2. 正式な刑事裁判を受ける機会喪失:
公開法定での裁判が行われないため、無罪主張のみではなく、自らの主張に基づく刑罰の軽減を求める機会も失います。
3. 冤罪のリスク:
書面審理のみで判断されるため、十分な主張や証拠提出の機会がなく、冤罪のリスクが高まる可能性があります。
4. 反省の機会の喪失:
公開法廷での裁判がないため、被害者や社会に対して反省の意を示す機会が失われます。
略式起訴の手続きの流れ
略式起訴の手続きは、被疑者が逮捕・勾留されているかどうかで若干異なります。ここでは、逮捕・勾留されていない場合の一般的な流れを説明します。
- 書類送検
- 検察官の説明と被疑者の同意
- 略式起訴
- 略式命令の発付と送達
- 正式裁判を請求するかの判断、罰金の納付
- 略式裁判の確定
1. 書類送検:
警察が捜査資料を検察に引き継ぎます。自白事件の場合、最初の取り調べから約2ヶ月で書類送検されることが多いです。
2. 検察官の説明と被疑者の同意:
略式起訴される前に、検察官が被疑者を呼び出し、略式手続について説明します。被疑者に異議がなければ、申述書に署名・捺印します。異議がある場合は正式起訴され、正式裁判をうける必要があります。
3. 略式起訴:
検察官が上司の決裁を得た後、簡易裁判所に略式起訴します。申述書の署名から略式起訴まで約2週間かかります。
4. 略式命令の発付と送達:
略式命令請求を受けた裁判所が事件記録を確認して、事件が略式裁判しても良いと判断した場合、略式起訴から約2週間後、裁判所は略式命令を発付し、被告人に郵送(特別送達)します。
5. 正式裁判を請求するかの判断、罰金の納付:
略式命令謄本を受け取ると、罰金を納付しなければいけません(仮納付期間の開始)。略式命令に不服がある場合は、告知を受けた日から 14 日以内に、略式命令をした裁判所に対して正式裁判を請求することができます。
6. 略式裁判の確定
14日以内に正式裁判の請求をせずに期間が徒過経過すると略式命令が確定します。裁判が確定すると正式に罰金を納付する必要があります。他方、正式裁判の請求によって判決がなされたときは、略式命令は効力を失います。
略式起訴後の罰金納付と不服申し立ての方法
罰金の納付
略式命令を受け取った後、検察庁から送付される納付書を使用して、指定された金融機関で罰金を納付します。
不服申し立て(正式裁判の請求)
略式命令に不服がある場合、被告人は略式命令を受け取った日から14日以内に正式裁判を請求することができます。正式裁判を請求すると、略式命令は効力を失い、通常の公判手続きで審理されることになります。
ただし、以下の点に注意が必要です:
- 容疑を認めている場合、正式裁判に移行しても略式命令と同じ判決が下される可能性が高いです。
- 正式裁判では、略式命令よりも重い刑罰が科される可能性もあります(不利益変更禁止の原則の適用はありません)。
- 正式裁判の請求は、主に「本人が当初無罪を主張していたにもかかわらず、意に反して自白調書をとられてしまい略式起訴された場合」などに限られるでしょう。
罰金を払えない場合
罰金を払えない場合、強制執行で財産が差し押さえられる可能性や労役場留置があります。
- 検察庁から支払督促が行われ、督促状が送付されてもなお、罰金が納付されない場合は強制執行にてあなたの財産を差し押さえます。強制執行が行われるとあなたが所有している財産を強制的に差し押さえ、換価処分(現金に変えて処分すること)した上で罰金に充てます。
- 労役場では紙袋作りなどの軽作業をすることが義務づけられます。労役場に収容される期間は、罰金額を5,000円で割った金額になります。例えば、罰金額が100万円の場合、200日(100万円÷5,000円)にわたって労役場に収容されます。
刑事事件でお悩みの場合は刑事事件専門の弁護士に相談しよう
略式起訴は一見すると被疑者にとって有利な手続きに思えますが、前科がつくことや冤罪のリスクなど、重大なデメリットも存在します。また、事案によっては略式起訴を避け、正式裁判で十分な主張・立証を行うことが望ましい場合もあります。
そのため、刑事事件に直面した際は、できるだけ早い段階で刑事事件に精通した弁護士に相談することをお勧めします。経験豊富な弁護士であれば、以下のような支援を提供できます:
- 事案の適切な評価
- 略式起訴のリスク説明
- 示談交渉のサポート
- 適切な主張・立証
- 手続きの説明と心理的サポート
1. 事案の適切な評価:
略式起訴が適切か、それとも正式裁判を選択すべきかを、事案の内容や証拠の状況を踏まえて適切に判断します。
2. 略式起訴のリスク説明:
略式起訴のメリット・デメリットを詳しく説明し、被疑者が十分な情報を得た上で意思決定できるようサポートします。
3. 示談交渉のサポート:
被害者との示談交渉をサポートし、略式起訴や不起訴処分につながる可能性を高めます。
4. 適切な主張・立証:
正式裁判となった場合、被告人に有利な証拠の収集や効果的な主張を行い、無罪や刑の軽減を目指します。
5. 手続きの説明と心理的サポート:
刑事手続きの流れや注意点を分かりやすく説明し、被疑者・被告人の不安を軽減します。
刑事事件は、場合によっては人生に大きな影響を与えます。「略式起訴に同意すべきか迷っている」「逮捕・勾留されている家族がいる」「警察から事情聴取を求められている」など、刑事事件に関連する悩みがある場合は、迷わず刑事事件専門の弁護士に相談してください。
早期の対応が、より良い結果につながる可能性を高めます。刑事事件に強い弁護士があなたの権利を守るために、全力でサポートいたします。
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